斎藤清詩集
祝・斎藤清 詩集・全二巻完成 2019年10月1日
斎藤清詩集の刊行を祝して、平山謙 さんの文が地ひびき 326号(2019年9月20日発行)に掲載されていますので、皆様に御覧に入れます。
斎藤詩集については六月の総集会で決定した通りです。
まもなく、同人の皆様には注文書(振込用紙)が送付されるでしょう。
写真に写る二冊の詩集の表紙は、大地(黄土色)と草(緑色)
ラインが実にシンプルに絵描かれ、大地に生きた斎藤清の魂が描かれている。
斎藤清さんの詩集を発行したいと、丸岡さんの悲願に似た決意を聞いたのは何年前の総集会だったろう。丸岡さんは膨大な資料を手元においてこれまで粘り強く、詩集発行に取り組んでこられた。昨年の十二月、長岡で開催された「丸岡、濁川・二人展」に行った時、ゲラ刷りまで完成した二冊がテーブルに並ぶ。
丸岡さんの悲願が実った時だった。それから半年、ようやく、同人の皆さんの手元に届くようになった。勿論、斎藤詩集は丸岡さんだけでなく、地ひびき同人みんなの願いでも喜びでもある。おめでとうございます。
全二巻を手にとって、地ひびきの先輩にこんな立派な詩人がいたことを、喜びたいと思います。
平山 謙(記)
斎藤清さんは大正11年3月16日現村上市に生まれ、平成4年9月22日に亡くなりました。地ひびきの同人でもありました。
保内尋常高等小学校、保内村立実践農学校卒業。
今回の刊行を喜び、丸岡先生より心に残る数編を掲載させて頂きます。
米
札束は食えないが
米は食える
おれは減反しない
俺の掌に光っている米
おやじの汗に光っていた米
たくさんの家族と
たくさんの貧困
上げ米の残りに
かてを混ぜ
黙って死んだ祖父や曾祖父その又祖父のむなしい祈り
愛着と辛酸を非情に剥がして
朔風と防雪の奥に暗担と消えた
白光の粒々
おれは先祖の夢を
おれの世に果たす百姓のせがれだ
はじめての土に
一粒の籾がこぼれた日から
人はどれだけの年月を耐えて来たか
おれは減反しない
おれはおれの作った米を
喜ぶ人々と分って生きる
一分間に八百人も餓死している
世界の現実
米は一体誰の倉庫に
どういう訳で余っているのだ
米が余るといわれて
自分の罪のように胸も張れない
情けない奴は百姓をやめろ
一人になっても
おれは作る
そしてその日が来たら
蕩尽と没落に青ざめた彼らが
紙切れは食えないと知った彼らが
お前に食を乞うその日が来たら
おれは静かに言ってやる
わかったら、食べろ と
雪の吹き荒れる日
雪が吹きあれると
父は炉端で大根ッ子をいぢくり
朝夕の菜を毒づきながら
五彩の火花を散らした
他人への善意が
お人好しのあざけりとなってかえったことも知らず
外が荒れると
父も荒れた
六十五年を酔っぱらい
しづまるときは正体がなかった
「ふみよし、いい子だに酒買うてきてくれや、十円やるすけ・・・」
雪のふる夜
二日酔の頭をお詫びのようにかきながら
温かい家へ
父が帰ってくる
牝牛に
愛しあうところから
でなおしていこうよ
みぞれには
櫛毛でもすき合いながら
雲のことでも思っていようよ
あたたかいこころから
すべては生まれると思うゆえ
つまづきはいたわりあって
しみじみと生きてゆこうよ
ひたむきなものだけが
この世を飾る
その日まで
きぬさや
きぬさやの
はつなりをもぐ
なすままに
まなこつむりて
きぬぎぬの
つゆにはじらふ
みのあをき
ほそききぬさや
きぬさやの
きぬさやのはつなりをもぐ
土
おれの城
おれの砦
おれの
思想
雲雀
麦畑のどこかで
雲雀が鳴いている
土に生きる若者の魂をゆすぶりながら
土を恋う男の情熱をかきたてながら
過去を忘れて
過去を忘れて
野良に出よ
野良に出よ
純朴な人々の胸に
春を告げて
大空を駆ける田園の歌姫
ほのぼのと陽炎がもえて
萌え出ずる若芽のみどりに
あざやかな菜種の花びらを織りなして
大地の絢爛な敷物の上に
百姓男のおおらかな望みを
高らかに唄いつづりながら
ちさき命のありったけを
どこまでも どこまでも
勢いっぱいに謳歌しつづけてゆく
春の天使よ
雲の上にひばり揚がれば鍬下ろす
百姓の血のさわぎ立つかも
*詩集の購入希望者は、
(有)めぐみ工房
〒940ー0032 長岡市干場1ー2ー17
電話 0258(32)7427