うん! おれもまだいけるぞ
310号 2016年8月発行に掲載
長岡市の中央を流れる信濃川に架かる5つの橋の中で、一番古い有名な長生橋の近くに、何時通っても降りている大きなシャッターにきれいな字で次のような言葉が書かれているのが目に入ります。
ボケない生き方七か条
一、散歩する
二、新聞を声を出して読む
三、社会と交わる(趣味、絵手紙など)
四、料理を作る(自分の食事)
五、恋をする(人間の本能)
六、日記をつける
七、電車、バスなどで出かける
・軽いストレスがあった方がいい
・規則正しい生活
(頑固な人間、極端な偏りの人間がなりやすい)
長岡絵手紙教会々員
いつの頃からあるのか解りませんが、信号機のある近くなので、車が停まった時に見ては、「うん、うん」と心の中で肯いていました。
一、散歩については、私はよく歩く方です。特に休みの時は少しぐらい天気が悪くてもスケッチに出かけますので、結構重い道具を担いで動きまわります。「いつも片方でばかり担いでいるから右肩が下がっているのよ」と家内から言われますが、人からは「歩く姿勢がいいですね」と言われて喜んでいます。
二、新聞は、声を出しては読みませんが、日刊2紙と隔日の地方紙に目を通しています。不愉快な記事や、贔屓の力士や、野球チームが負けると一時気が滅入りますが、好きな作家の連載小説で気が晴れます。人前でしゃべることは苦手ですが、若い人とカラオケなどに行くと、よく歌う方ですし、仕事上声を出すことは多いです。
三、社会と交わるは、絵の仲間は多いし、好きな酒は種類や銘柄は二の次三の次で、一番はどういう人と飲むかで、二番目はどんな肴で飲むかだと思っています。これまでは結構、いろいろな仕事に振り廻されることが多かったのですが、これからは、本業の仕事と絵と家庭菜園だけのシンプルな生活を目指しています。
四、料理については、以前書いたことがありますが、丁度25年前医院を開業した時、全く経験のない家内を手伝わせることにしました。その代わりに早起きの習慣があるので、家族の朝食を作ることを約束しました。3ヶ月もすれば双方音を上げるだろうと思っていたのですが、お互い今まで続いてしまいました。孫が高校生だったころは、3年間弁当も作りました。色どり構成など絵を描くようで楽しい作業だったのです。レパートリーは拡がりませんが、美味しいものを頂くと、つい「これどうして作るんですか?」「私にも出来ますか」と聞いてしまい、「丸岡さんには料理をつくる張り合いがあります」と喜んでもらえます。一日おき位にスーパーに行きますが、2割引、半額などでまだ新鮮なものを狙います。誰方か簡単で美味しいレシピを是非教えてください。
五、恋をする。先日、私もメンバーになっている、障害者の施設 の理事と評議員の会がありました。この方達の心と熱心さにはいつも感動するのですが、会議が終ると会場で軽く飲むのが常です。簡単な料理といろいろな酒が楽しいのです。この時は初めて目にするお酒に「これは美味しいですね」と言うと、理事長が「先生、女の人と酒に心がときめかないと男じゃないですよ」と小さい声で言いました。今更、色恋ではないけれど、素適な女の人に会うと気になります。私の場合、絵に描きたい気持に通じます。若い人なら清潔感と命の輝きですね。年配の人なら、生きて来た道のりを伺わせる清々しさというか、そういう人を美しいと感じ、絵のモデルにしたいと思うのです。人だけでなく、何かにときめく、そういう気持が 大事で、地ひびきの指標の「平凡な隣人の生活の中の、美しいもの、しんけんなものに目を見張ろう」はそうした心の在りようではないでしようか。
六、日記をつける。子供の時からいつも三日坊主で終ってしまう日記ですが、仕事上のこともあり、大きめの手帳に毎日書いています。余白に、料理のレシピや小耳に挟んだ素適な言葉などを書き込んであります。何年も前のこうした記録が、役に立つことが属々あります。
七、電車、バスで出かける。私は今も自分で車を運転して出かけますが、短い距離でも、電車やバスに乗ることが好きです。大げさに言えば、自分の運命はこの乗りもの委せ、という気楽さが好きなのです。ですから、こんな場合いくら短い時間でも旅をしているという気分になり楽しいです。
よく患者さんから、「どうして先生はいつもお元気なんですか」と聞かれますが、そんな時「今度の休みにはどこに行こうかなと考えているからでしようか。私の場合絵を描くことが主ですが、その他にもやりたいことが沢山あるのです。何しろ、今が遊び盛りですから」と言っています。
佐藤州男さんがお元気だった頃、お宅を訪ねたことがあります。広い部屋の壁に「遊びをせんとや生まれけん」と書いた額が掲げられていて、「知っているでしょう」と言われました。梁塵秘抄の有名な一節です。筋菱縮症で思うままに身体が動かない中でも、心は自由に羽博いていられるのを感じたことを憶えています。
この3月8日、私は米寿を迎えましたが、まだまだ人生の途上だと思っています。やりたいことやらなければならないことが沢山残っていますし、私を頼って来て下さる患者さんが居られる限りは現役でいたいと思っています。
ボケない七か条を見て、“うん、おれもまだまだいけるぞ”と思っています。