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七年後の日本に

293号 2013年10月20日発行に掲載

9月8日未明、2020年のオリンピックが東京に決まったというニュースを聞き、その時ちょうど車を運転していた私は、すぐに停めて、思いっきり拍手をしました。突然、涙が溢れてくるのを感じたのですが、一番最初に思ったことは、「それまでには、日本をよい国にしておかなければならない」ということでした。それに続いて、「これで又生きて行く張り合いが出来た」という思いが湧いてきました。

多くの人は、前回の東京オリンピックの時のように、大きな経済効果をもたらし、生活が便利になることを思っているようですが、私が「よい国に」とねがう気持ちはそういうことではないのです。

7年後には、この度の大震災で大きな被害を受けたところは完全に復旧というよりは、もう津波の心配をしなくてもいい状態になって、平和な日常がとり戻されていること。福島では放射線が完全に封じこめられ、安心して農業や漁業を営むことが出来るようになっていること。これだけでも完成しておけば、世界中の人に日本に来てもらう価値があると思っています。

更に、超高齢化社会を迎えている日本は、世界中が関心を持っているところですが、国中が英知をしぼって、この問題に取り組み、お年寄りが安心して生きて行ける、せめてものその先を感じてもらえるまでになっていて欲しいと祈っています。高齢化社会問題では、日本は世界のリーダーにならなければならないからです。

ある日、私はある若者に「日本は世界中で一番いい国だ」と言ったことがありますが、その時彼は、「自殺者が年間3万人もいる国がどうして世界で一番いい国と言えるんですか」と言いました。

確かに3万人という数はただごとではない。本当に気の毒な人が大勢いる。しかし多くの人、特に若い人たちの場合、生きる選択肢を見つけられないでいる。世の中が悪い、政治が悪いというのは簡単だが、今の日本人は挫折に極めて弱くなっている。つまり極めてひ弱になっているように思われる。挫折が人をたくましくするものであるから、どこで、どうして自分を鍛えるか、これを家庭でも学校でも社会でも考えて行かなければならないが、最も大事なことは一人一人の自覚である。というようなことを言いました。なんだかよく理解してもらえない彼に、われわれの若い頃は、学生半ばにして戦争に駆り出され、多くは帰らぬ人となった。今の日本では、徴兵の義務はないし、自分の可能性を発揮しようとすれば、いくらでも出来る。われわれは、新しい憲法が決まった時、学校で「今の日本は世界で一番いい国だ」と話し合ったものだが、それは、今も同じことだ。やっとわかりかけた彼に、憲法で象徴とされている天皇が常に国民の幸せと世界の平和を希って行動して居られる。こんな国は他にないし、日本の自然の美しさを見れば、日本が如何によい国であるか分かるでしょうと言いました。70年近く戦争がなく平和が続いている中に、その有難さを感ずる人は少なくなってきています。戦争を体験した者だけが分かるというのであれば将来が心配です。

日本の若者には大いに世界に目を向けて欲しいし、外国を知ることと同時に、歴史を学んで日本のことを知って欲しいと希っています。オリンピックが東京で開催されることで、日本人が外国の人と交流を持つ機会が増え、お互いの国のことを知り合うことになれば、何よりも大きな意義を持つことになると思っています。

かつて目覚ましい発展をとげて世界の各方面で高い評価を得ていた日本が、今や後進の各国に追い越されています。しかし、それを巻き返すのではなく、新しい方面で、可能性を発揮し、世界の賞讃を受けることは出来ます。いろいろと極めて大きな問題を抱えている今の日本は、そのチャンスに恵まれていると言えないでしょうか。7年後、どんな選手が出て来て、どんな種目で活躍するかも楽しみですが、アスリートだけでなく、どんな人がどんな方面で活躍しているか、私は大きな期待を持っています。

同じ年頃の集まりで、「もうおれたちに関係ない」とか「それまで生きていられるのか」と言う者が多くがっかりさせられましたが、私は、始めに書いたように、「生きる張り合いが出来た」と思っていますし、何よりも、「それまでには日本をよい国にしておかなければ」と切に願っています。